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セッション 執念、狂気、暴力、野心。言葉にできない感情がビートとして響く。パワハラが問題になる今だからこそ見るべき傑作。

セッション

 

公開: 2014年10月10日(アメリカ)、2015年4月17日(日本)

配給:  ソニー・ピクチャーズ・クラシックスアメリカ)、GAGA(日本)

監督:デミアン・チャゼル

キャスト:マイルズ・テラーJ・K・シモンズ

第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、J・K・シモンズ助演男優賞を含む3部門で受賞した。

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セッション : 場面カット - 映画.com

 

【あらすじ】

 

シェイファー音楽学校に通うニーマンはバディ・リッチのような偉大なドラマーになることを夢見ていた。しかし、校内で彼の技術は認められることなく、その野心からか仲間からも孤立していく。

 

ところがある日、校内で最高の指揮者フレッチャーはそんなニーマンの才能に目を引き、自分の教えるスタジオ・バンドに迎え入れるのだった。

 

フレッチャーのバンドは皆、技量も高く、校内最高のバンドに入れると高揚するニーマンだったが、現実は甘くなかった。自分の要求に見合わないニーマンを容赦なく、罵倒し、彼を追い詰めようとしていく。それに返って奮起するニーマンは連日ドラムの練習に没頭する。

 

暴力、パワハラなど理不尽なフレッチャーの下でニーマンは偉大なドラマーになるという夢を叶えることができるのか・・・。

 

【おちゃ的感想】

 

☆☆☆☆☆(最高傑作、文句なし)

 

『セッション』というタイトルの通り音楽を主題にした映画ですが、自然と体がリズムを打つほど作品を食い入るように見ていました。感情移入できるだけでなく、感性にも訴えかける作品でした。

 

まず、ニーマンの執念が圧倒的です。

ドラムの叩き過ぎで手から出血しながらもそれを氷水で冷やすことで痛みを麻痺させ、練習を続行するシーンがあるのですが、それが見事に音に乗ります。野心と傷つけられたプライドが音をより深く、重く感じさせます。

特に劇中ではテンポに言及されることが多いのですが、倍テン(通常の倍のテンポ)は迫力があり、音が早くなればなるほど、魂に強く響くような演奏です。どんどんニーマンの演奏は狂気じみていき、音楽に没頭するためガールフレンドとは別れ、家族に認められなくても孤独にドラムを極める姿はエスカレートしていきます。

 

このニーマン(マイルズ・テラー)とフレッチャー(J・K・シモンズ)の演技も最高でした。音楽が主体になるため、「恨み」、「妬み」、「悔しさ」、「怒り」など様々な感情を言葉数少なく、表現しなくてはいけません。その複雑な演技がドラムを叩く、指揮をする表情で見事に表現されています。また互いのプライドがぶつかるシーンもあるのですが、怒鳴り散らす迫力は圧巻です。

 

最近スポーツ界(アメフト、ボクシング、体操・・・)でパワハラ問題が過熱していますが、本作も指導者の力による支配、それを超越することへの期待を表現しています。

フレッチャーのセリフで、『「自分が学生を殴るのは、彼らにジャズ界の伝説になってほしいと願うからだ。自分の仕事はバンドを前に腕を振ることではない。偉大なミュージシャンを育てることだ。かつて、ヘマをやらかしたチャーリー・パーカーに、ジョージョーンズはシンバルを投げつけた。しかし、それがパーカーの克己心に火をつけ、彼を偉大にした。自分のやったことに後悔はない。」「よくやったと生ぬるくほめそやすことで、第二のチャーリー・パーカーの才能を殺すことこそが悲劇だ」』*1というものがあるのですが、現在のパワハラ問題の根源もこれに尽きると思います。

最高のパフォーマンスを引き出すための手段としての暴力や圧力、理不尽があると彼は主張します。「見返してやる」などという甘っちょろいものではなく、憎しみすら見出す復讐心こそ、偉大な音楽家を作るエッセンスだと断言しています。

 

そして最も優れていたのがラストシーンです。二人の名優の超演技と怒涛のビートに鳥肌が立ちました。会話はほぼありません。約9分ものステージでの演奏ですが、それは音楽によって自己を表現するといった生易しいものではなく、理性を超越した本能によってニーマンの演奏がバンドや会場、そしてフレッチャーをねじ伏せているようにも感じます。汗、息遣い、音、ただ1回のドラミングですら爆発的な衝動を与えます。

 

演技、音楽、脚本の3拍子揃った最高傑作だと思いました。107分の短い映画ですが、非常にテンポもよく、見ごたえのある一品です。音楽経験者でなくともその音には間違えなく魅了されることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ここからネタバレ~

 

まず語り足りないのがラストシーンです。

本当に言葉にすることが難しいので、圧倒的と表現します。陥れられたことへ復讐をするため、わざとニーマンをバンドへ復帰させるのですが、その手口が本当に卑怯そのものです。「会心してニーマンに再度最高のパフォーマンスをさせるのかな~」と僕は思っていたのですが、完全に予想を裏切られました。譜面を見て慌てるニーマンにうれしそうなフレッチャー。「最後までやってくれるな~」って感じです。(笑)

このままバッドエンドで終わると思いきや、ニーマンも反撃。フレッチャーの想像の上を行く演奏でフレッチャーをねじ伏せてしまいます。さらにそこからのソロドラムはすごすぎます。あれだけしてやったりだったフレッチャーも感情を揺さぶられ、「このパフォーマンスをもっと引き出したい」と言わんばかりの表情と指揮を見せます。ニーマンのドラムが完全に空間を支配し、ドラマーズハイ(?)になります。その様が本当にかっこいい。これまでのニーマンの孤独、努力をすべて音楽に昇華させるように演奏は鳴り響きます。

そして、演奏終了と同時にエンドロールになるのも良かったです。無駄な言葉はいりません。だだ余韻に浸るだけの最高の終わり方だったんじゃないかと思います。

 

そして、もう一つ印象に残ったシーンが、血だらけのニーマンが演奏するシーンです。遅刻によりラストチャンスを宣告されたニーマンはステックを取りに戻る際、交通事故で血だらけ。それでも執念でステージにたどり着き、演奏を開始します。そんな状態で演奏できるわけないのですが、フレッチャーは容赦ありません。そのシーンがニーマンだけでなく、フレッチャーの執念をさらに狂気的に仕上げます。

このシーンで2人の異常な執念が常人には理解できない域まで達していることに感服しました。

 

ラ・ラ・ランドと同じ監督、作曲家で見ましたけど、僕にはそれよりも良かったように思いますね。まあミュージカルと比較するのもナンセンスかもしれませんが・・・。

 

 

※当記事はすべて筆者の一所感(あらすじ含む)なので、公式サイトと差異があることをご了承ください。またご指摘、ご意見いただければ幸いです。